六華窯雪月花~News
六華窯の 「今」 をお伝えしていきます。
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六華窯雪月花~News No.42
随想 「アントワープのゴッホ君」

「ノンノン ムッシュー! あなたを疑っているわけではありません。
単なる小さな問題です。 ただ、その問題が何故か私の脳細胞を
刺激するんです」。これはおなじみの名探偵ポアロのせりふです。
容疑者から背の低さを陰口された時に、むっとしたように口ひげを
跳ね上げるシーンを、ふと思い浮かべた瞬間、私の乗った電車は
アントワープの中央駅に滑り込んだ。
チケット売り場がある一階に下りると、そこは百年前に建てられた
ルネッサンス様式の大ドームだ。 待合室のキャビンにはルイ王朝
風の大時計が時を刻んでいる。 皆が利用するこの壮麗な駅舎は
国の重要文化財であると聞き、ここでも、他のヨーロッパ諸国で見ら
れるように、日本の非日常がベルギー国民の日常の風景なのかと
思った。
その時、右手のアーチの出口の向こうに、油絵のような街並みの
風景が雨にかすんで見えたので自然に私の足は、その明かりの方に
向いた。 この町は、初めて訪れる旅行者をもやさしく迎えてくれる
雰囲気をもっているというのが第一印象であった。
小雨にぬれながら約束の場所に立っていると、小柄なゴッホ君が、
人懐っこそうな顔で現れた。 昨年の七夕に友人に連れられてフィア
ンセとふらりと我が家に来て以来半年ぶりの再会である。 私達夫婦
は一瞬にしてこの若き青年の不思議な魅力の虜になってしまい、こう
して憧れのアントワープを訪れることになったのも何かの縁であろうか。
彼はその名の示す通り、あの画家ゴッホの末裔である。
画家ゴッホはフランスに移る前にアントワープに住んでいた時期があり、
この地より弟のテオにパリ行きを願い出る書簡を送っている。
巨匠の自画像と見比べた時、彼の眉から額にかけてその面影が残っ
ている。 彼は大学で教える一方、家具デザイナーでもある。
フィアンセの事を尋ねると、ちょっと心配そうな顔になったが、彼の灰
色の脳細胞がうまく問題を解決するであろう。 再会を約束して、この
街を後にした。
(以前掲載された河北新報より)
Boutonniere ブート二エール(胸の花飾り用ピン)
名探偵ポアロのドラマ『チョコレートの箱』で、彼が欠かさず付けている胸の花
飾りが実にエレガントである。 ベルギー警察の警官時代に、依頼人で親密な
婦人から贈られたもの。 お互い胸に秘めた恋で終わるが、彼がドラマ中で
一生付け続けているという意味で、ポアロの淡い恋心を見るたびに感じる。
『オリエント急行殺人事件』でも付けている。
六華窯雪月花~News No.41
結晶釉壺とGolden Showerは春を手招きしています~
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